クリスマスも終わり、正月を待つだけの残りの1週間は、いつも持ち越したくない仕事に追われ、時間が足りなくなります。
仕事に夢中になり、その日も、いつもより遅い帰宅となりました。
暖房を強くしても、窓ガラスから外の冷気が伝わってきます。まばらな街灯と空を覆う厚い雪雲は、暖まろうとする気力さえも奪います。
そんな年末の、寒い夜の出来事でした。
ラーメンを食べて暖まろうと思いついたのは、いつもは通り過ぎるラーメン店の少し手前くらいでした。
閉店時間は9時頃だったと思います。時計を見ると8時40分をちょうど過ぎたところでした。
もう閉店の準備中でしょう。閉店間近の来店は嫌がられるだろうと迷ったのですが、温かいラーメンの誘惑に勝てず、店によることにしました。
店内をうかがうように、そっと店のドアを開けると、やはり店内にお客さんは一人も居ません。静かな店内には、控えめな有線の音楽だけが流れています。
しばらく待つと、遠くから「いらっしゃい」のかけ声だけが聞こえます。
やっぱり入らなければ良かったかなあ・・・と、ばつの悪さを感じましたが、今更出て行くわけにもいきません。
そそくさと食券を買い、目も合わせずに店員さんに手渡しました。
愛想のない店員さんが、無言で4人掛けのテーブルに促します。
厨房から後片付けの音が聞こえてきます。気まずい時間が流れます。
店員さんと目が合わないように、ずっと下を向いて携帯を眺めていました。
ラーメンは、すぐに運ばれてきました。
せめて早く食べて帰ろうと、箸に手を伸ばしたときでした。「ごゆっくりどうぞ」の店員さんの声が聞こえたのです。
私の心を察してくださったのでしょうか。優しい声でした。
その一言ですっと心が軽くなったのを覚えています。
はっとして始めて顔を上げると、もう店員さんは店の奥に居なくなっていました。
有線から流れる、昔ヒットした冬の定番曲を聴きながら、いつもよりも急いでラーメンを食べて、いつもよりも大きな声で「ごちそうさま」を言って、小走りで店を出ました。
その日のラーメンは心も体も温めてくれました。